2026/05/01
現場で、強く感じてきたことがあります。
本来の目的が、いつの間にかすり替わってしまっている。
そんな場面に、何度も出会ってきました。
例えば、買主様とお話ししていると、
取引の主導権がどこにあるのかという認識に
ズレが生じてしまっている場面に出会うこともあります。
これは決して誰かを責めるものではなく、
これまでの環境の中で、
自然とそうなりやすい構造があったのかもしれません。
本来は、物件や条件に応じて、
売主様にとって最もふさわしいご縁が選ばれていくべきところが、
いつの間にか
“ご自分の意向を通すこと”が前提となり、
話が進んでしまうケースが見受けられます。
これは、
ご自分と仲介会社との間だけで話が進んでいるかのように、
取引を“1対1の関係”として錯覚し、
他の複数の検討者の存在を
まるで存在しないかのように捉え、
全体像ではなく、
ご自分の視点だけで判断してしまっていることに起因します。
気づけば、
取引が“自分中心の物語”になってしまっていることもあります。
本来、取引は相手があって成立するものです。
その本質が抜け落ちた瞬間、
取引は大きく歪んでいきます。
私は、売主様にとって最適なご縁をお繋ぎする立場として、
一つひとつの判断を大切にしています。
実際には、さまざまな条件やタイミングの中で、
最適なご縁が選ばれていきます。
その軸が揺らいでしまうと、
取引全体のバランスもまた、崩れていくのです。
また、当初は“自身の事業を築くこと”を目指したはずが、
“融資を通すこと”が目的になっている場面に出会うことがあります。
もちろん、融資は不動産事業において欠かせない要素です。
融資が通らなければ、
そもそも物件を取得することができない。
それは紛れもない事実だと思います。
ただ、その“必要な手段”であるはずの融資が、
いつの間にか“最優先の目的”になってしまったとき、
本来見るべき判断軸が、
少しずつズレていくのです。
ご自身の融資状況に合わせて、
最初から大幅な価格調整を前提とした話になってしまうケース。
さらにその延長線上で、
テクニックという名のもとに、
本来の軸が大きく歪められてしまっている場面に出会うこともあります。
すなわち、手段が目的化し、
気づかないうちに倫理の一線を越えてしまっているケースも、
残念ながら見受けられます。
物件の収益性や将来性を見て判断するはずが、
いつの間にか
“通るかどうか”が判断基準になってしまっている。
目的と手段が逆転した瞬間、
不動産は“事業”ではなく
“ただのパズルの穴埋め”へと変質してしまいます。
そしてこれは、
売主様にとっても、決して他人事ではありません。
売却を悩んでいる段階では、
“納得できる選択をしたい”という想いが、
中心にあるはずです。
そして本来の目的は、
手元に確実な現金を残し、
トラブルなく契約を終え、
“納得して次の一歩を踏み出すこと”ではないでしょうか。
資産の出口戦略を成功させ、
次の人生(一つの区切りとして手放すこと、
相続や納税といった現実的な課題)をより良い形で迎えること。
それこそが、達成すべき目的ではないでしょうか。
けれど、“売る”と決めた瞬間から、
少しずつ意識が変わっていきます。
気づけば、
“1円でも高く売ること”が、
いつの間にか目的になってしまっていることもあるのです。
つまり、軸が“価格”へとすり替わってしまう。
売却の目的が、
“人生の整理”から
“価格の最大化”へと、
静かに変わっていくのです。
その背景には、
「もう少し高く売れるかもしれない」
「今売るのはもったいないのではないか」
といった周囲の声や、
「損をしたくない」という自然な感情が、
少なからず影響しているのかもしれません。
その結果、
判断軸が“価格”だけになってしまい、
大切にしていたはずの“納得感”が、
後回しになってしまうこともあるのです。
その瞬間から、判断は難しくなり、
結果として“動けない状態”に陥ってしまうのです。
例えば、複数の査定の中で一番高い価格に、
強く意識が向いてしまっていませんか?
その根拠の曖昧な高値に引っ張られることで、
本来スムーズに進むはずの取引が、
結果として時間だけが過ぎてしまうケースも、
現場では見受けられます。
高く売りたいという感情は、決して悪ではありません。
ただ、その想いが、
いつの間にか“執着”へと変わり、
「出口」というゴールを塞いでしまうのであれば、
それは、
本来の目的から離れてしまっている状態です。
目的を見失ったままでは、
動けなくなります。
本来、不動産取引は、
“納得して次に進むためのもの”であるはずです。
けれど、その目的を見失ってしまうと、
取引はいつの間にか、
誰もが苦しさを抱えるものへと変わってしまいます。
迷いが生まれたときは、
「そもそも、なぜこの選択をしようと思ったのか」
その原点に立ち返ってみることが、
何より大切なのではないでしょうか。
だからこそ、一度立ち止まり、
ご自身の中にある“本来の目的”を整理することが必要です。
では、どうすればいいのか。
テストの解答のような“正解”は、ありません。
ただ一つ言えるのは、
気づかないうちに“目的がすり替わっている”ということです。
そこに気づくことから、
少しずつ変わっていくのではないでしょうか。
そのうえで——
一つのきっかけとして、
私が大切だと感じていることがあります。
それは、
“現場に戻る仕組みを持つこと”です。
ここでいう「現場に戻る」というのは、
単に物理的な場所に足を運ぶことだけではありません。
利回りや属性といったフィルターを外し、
剥き出しの不動産と向き合うことです。
私は仲介として、
その「剥き出しの真実」をお伝えする役割でありたいと考えています。
また、現場で見てきた中で、
もう一つ感じていることがあります。
それは、
物件を取得する段階においては、
非常に多くの時間とエネルギーをかけて向き合われている一方で、
その後の“経営”の部分については、
結果として後回しになってしまっているケースが見受けられるということです。
物件を手に入れること自体は、
決してゴールではなく、
本来はそこからが「事業」としてのスタートです。
けれど、融資というハードルを乗り越えることに集中するあまり、
気づけば「取得すること」そのものが、
一つの到達点のようになってしまう。
その結果として、
管理会社に委ねる割合が大きくなり、
ご自身が主体的に関わる機会が少なくなってしまうこともあります。
その積み重ねの中で、
空室が長期化したり、
本来であれば防げた可能性のある課題が生じてしまうケースも、
現場では見受けられます。
ただ、これからの時代においては、
取得した後にどのように向き合い、
どこまで主体的に関わっていくのか。
その“姿勢”そのものが、
結果として問われていくように感じています。
例えば、買主様であれば、
ズレる原因は、
融資・数字・スキームに頭が寄りすぎることです。
そんな条件に意識が向いたときこそ、
一度、物件そのものに立ち返ってみてください。
実際に足を運び、
そこに住む人の生活を想像し、
空室の理由を自分の感覚で捉えてみる。
「もし自分がここに住むとしたらどうだろうか。」
その問いに立ち返ることで、
「事業として成立するか」という視点に、
自然と戻ることができるはずです。
また、売主様であれば、
ズレる原因は、
「1円でも高く」に引っ張られることです。
価格ではなく、
「この物件を誰に託したいか」という視点を、
一度思い出してみてください。
この建物がこれからどう在り続けてほしいのか。
どのように受け継がれていってほしいのか。
その未来に思いを馳せることで、
「納得して手放す」という感覚に、
もう一度立ち返ることができるはずです。
本来、目的というものは、
頭で考え続けるものではなく、
“体感で思い出すもの”なのだと思います。
もし、目的を見失いそうになったときは、
一度“現場”に戻ってみてください。
その物件に立ち、
そこに流れてきた時間や、
これからの未来に思いを馳せること。
それだけで、
何のためにこの取引をしているのか、
自然と思い出せるはずです。
あちこちの条件や数字に目移りせず、
本来の目的にまっすぐ向き合うこと。
これからの時代においては、
これまでの前提自体が、
少しずつ変わり始めているように感じています。
金利・空室・競争といった環境の中で、
主体性のない経営が、静かに振り落とされていく。
そうした局面に、すでに入ってきているのではないでしょうか。
さらに今後は、
市場環境の変化も含め、
その厳しさは一層増していくことも想定されます。
だからこそ——この事業に対して、
本気で向き合う覚悟があるかどうか。
それが、これまで以上に問われる時代に
なってきているのではないかと感じています。
RC一棟という大きな資産を預かるということは、
単なる所有ではなく、
一つの事業として向き合う責任を伴うものだと感じています。
「所有すること」が目的になった瞬間に、
不動産は“事業” としての本質を失っていきます。
本来、この事業の価値は、
取得した後にどのように向き合い、
どのように経営していくかの積み重ねの中にあるはずです。
だからこそ私は、
この不動産という事業に本気で向き合い、
主体的に経営していく覚悟のある方にこそ、
売主様の大切な資産を繋いでいきたいと考えています。
これからの時代、
問われているのは「属性」ではなく、
この事業にどう向き合うかという“姿勢”です。
そしてそれこそが、
誰にこの不動産を繋ぐのかを決める、
最も大事な要素だと考えています。
不動産取引の“正体”とは、
数字のやり取りではなく、
人生の次の一歩を踏み出すための
「納得」のプロセスなのかもしれません。
ただ——
その「納得」を現実のものとするためには、
今、市場を包み込んでいる「麻酔」の正体に、
気づかなければなりません。
歪んだ構造の中で、
何を基準に判断を下すべきなのか。
その具体的な視点については、
ビジネス編で整理しています。