第7話 すべては「信用できるかどうか」

2025/10/06

世の中にある、あらゆる判断基準のなかで、私がもっとも大切にしているもの。

それは──「この人は、信用できるかどうか」

 
投資の世界に限らず、仕事でも、友人関係でも、人間関係のすべてにおいて。
私の判断の軸は、いつもここにあります。

※(家族については、そもそも“信用する/しない”という基準ではなく、無条件のつながりだと私は思っています)

 
特に仕事の世界では、この“信用”という軸が、ときにシビアなほどハッキリと結果に表れてきます。

 
ピンチの時でも誠実さを貫けるかどうか。
環境や状況が変わっても、根本の姿勢を保ち続けられるかどうか。
相手に対するリスペクトはあるかどうか。
都合が悪くなった時、逃げないかどうか。

そのすべてが「信用できるかどうか」という一点で、最終的にすべてが決まると私は思っています。

 
そんな“信用”という基準を、わざわざ意識する必要すらなかった人がいます。
その存在すべてが、自然とこちらの心を開かせてくれるような──
まるで“人間そのものが信頼そのもの”というような在り方の方でした。

 
私がはっきりとその力を感じ取ったのは、日本一の個人投資家──竹田和平さんです。
ただそこに居るだけで“場の空気”が一変したのです。

 
不思議と心がほどけて安心するような空気、まるで魂そのものからにじみ出ている優しさ、穏やかで柔らかな力を持つ方でした。

そのとき私が感じたのは、威厳やオーラではなく、肩書や実績を超えた”人”としての“温かさ”でした。
彼が現れた瞬間、まるで清流が静かに流れ込むように、その場の空気が澄んでいきました。

小学生の頃、私は新聞で「卵ボーロの製造過程で“ありがとう”の音声を 24 時間流している社長がいる」という記事を読み、強い衝撃を受けました。
その記憶はずっと心に残っていました。

 
そして、竹田和平さんがお亡くなりになる 2 年ほど前──
参加していた講演会の対談形式でゲストとしていらっしゃった、その“卵ボーロの社長”にお目にかかることになります。

登壇の際に「竹田和平さんです」と紹介され、私のすぐ横を通っていかれた瞬間、胸を打たれました。
日本一の個人投資家とも呼ばれる方だから、もっと威厳に満ちていると思っていたのに、目の前を歩いていかれたのは驚くほど穏やかで謙虚なお姿だったのです。

 
和平さんがなぜ卵ボーロに「ありがとう」を聞かせ続けたのか──。
それは単なる風変わりな習慣ではなく、明確な哲学がありました。

・言葉には波動があると信じ、食べ物や製品に良いエネルギーを宿したい
・小さな子どもたちが食べる卵ボーロに、健やかに育ってほしいという祈りを込めた
・経営とは利益を追う前に、徳を積む行為であるという信念

 
こうした思いが一つのお菓子に込められていたのです。
私はその話を知って、子どもの頃に抱いた「不思議」は、実は深い愛と哲学に基づいていたのだと理解しました。

 
多くの投資家は恐怖や欲に縛られてしまいます。
「失敗したらどうしよう」「もっと儲けたい」という思いが、場全体を重くしてしまう。

一方で、和平さんはまったく逆でした。
「分け与えること」に喜びを見出し、人に与えることそのものを楽しんでいたのです。

 
だからこそ、和平さんがいる場は軽く、明るく、温かさに包まれていきました。

私はその姿を通じて、本当の投資とは“数字を増やすこと”だけではないと気付かされました。
関わる人の心を豊かにし、場を調和させる力そのものが「投資の本質」なのだと。

 
けれども、正直に言えば──
現場で出会う中には、和平さんのような在り方とは真逆の方々もいらっしゃいます。

残念ながら、一部の方々は自分の利益だけを最優先に考えてしまうのです。
取引相手を「人」としてではなく「道具」として扱い、損得勘定のスイッチが極端に早い。
表面上は礼儀を装っていても、その裏には打算や狡猾さが潜んでいる、そんな場合もあります。

 
社会的にも信頼の高い職業である医師の方から「現金で購入するので一番手にしてほしい」と言われたことがあります。
私はその言葉を信じ、誠実に対応し、一番手として話を進めました。

ところがその後になって税理士に「融資を使った方が良いと助言された」と条件が変わり、最終的には銀行から融資を断られ、「やめます」と軽く済ます。

 
私はこの経験で一つ学びました。
肩書きや資金力を盾に「信用できる」と思い込んでしまったこと、そして結果的に売主様にご迷惑をおかけしてしまったこと。
これらは私にとって大きな反省であり、痛みを伴う気づきとなりました。

結局のところ、一番大事なのは肩書きでも条件でもありません。
その人が本当に誠実で、責任を持ち、人として信用できるかどうか。
そこに尽きるのだと、私は心から理解しました。

そしてこの学びは、竹田和平さんの「徳を積み、人を和ませる在り方」とも深く重なります。
数字や肩書きに振り回されるのではなく、その人の内側にある信頼性を見極めること。
それこそが、仲介者としての私の使命なのだと今は確信しています。

 
だからこそ私は、誰よりもまず自分自身を信頼できる人間でありたい。
そうでなければ、人を信じることも、信じてもらうこともできないと感じているからです。

一番大切なのは「信用できるかどうか」。
その一点に、すべてがかかっているのです。

 

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執筆者

高木 恵美

複数の業界で営業職を経験し、今は一棟収益マンションの仲介業を全国で行っています。
営業としての土台を築いたのは、リクルートでの4年間。厳しくも濃密な経験が、私の原点です。
感性を大切にしながら、物件の背景や売主様・買い主様の想いに寄り添い、同時に、数字や収支の分析など、専門性もしっかりと持ち合わせた“両輪”の姿勢で、誠実な取引を心がけています。