第6話 私が今、一番怖いと感じるのは──

2025/09/03

私が今、一番怖いと感じるのは、それは__視野が狭くなることです。

しんどいことや辛いことが重なると、人はついこう思ってしまいます。
「なんで自分だけが、こんなに大変な思いをしなきゃいけないの?」と。

私も、そう感じた時期がありました。

私が、自分自身の視野の狭さを突きつけられて目が覚めたのは、社会人としてまだ駆け出しの頃でした。


 

リクルート時代、限界の中で気づいたこと

後にも先にもあれほど働いたことがないほどの仕事量とプレッシャーに追われていた頃。
求人原稿の締め切りは重なり、トラブルの調整は次々と舞い込み、一日中、クライアントからの電話とメールは途切れません。
机の上は未対応の案件でいっぱい。

外回りから帰社し、夜、電話でクライアントと話している最中にも、別の取引先から次々と電話がかかってきます。
私宛の伝言メモが、会話をしている間に三つ四つ、ペタペタと机に貼られていく。

受話器を片手に、次に折り返す相手や優先順位を頭の中で必死に整理しながら、やり取りを続ける──そんな状態が毎日続いていました。
 

体も頭も限界を超え、私は思わず天を見上げました。
「もう無理…」これまで張り詰めていた緊張の糸がふっと切れてしまったのです。
心の中で「もう本当に無理…」そう繰り返しながら、力が抜けていくような感覚。

その時です。
ふと横を見ると──同じ営業の同僚が、今にも泣きそうな顔をしていました。

その瞬間、私はハッとしたのです。
「ああ、私だけじゃなかったんだ」と。

同じ状況で戦っている人がすぐ隣にいたのに、私は“自分だけがしんどい”と思い込んでいた。
その時、自分がどれほど視野を狭くしていたかに気づかされました。

私は急に自分が恥ずかしくなって、不思議なところから力が湧き上がってきたのを覚えています。
弱気になっている場合じゃない。
 

どうやって乗り越えたのか、分かりません。ただ必死に無我夢中で全速力で走り抜けた。
そんな感覚。まるでゾーンに入り、火事場の馬鹿力が働いたかのようでした。
とにかく、後ろを振り返れば、絶対無理と思っていた山をいくつも越えてきた自分がいました。

若い時の苦労は買ってでもしろと言った先人の教えに私は深く共鳴します。

視野が狭いままであれば、人のことを思いやる優しさも失われ、限界を超えることも到底出来ませんでした。

そして、この気づきは、実はもっと前、小学校の頃から芽生えていたものでした。


 

小学校1年生で知った「バランス」の大切さ

小学校から大学までの先生の中で、私の心に一番強く残っている言葉があります。
それは、私がこれまで出会った先生の言葉の中でも、間違いなく最も大きな影響を与えた言葉です。

小学校1年生の時、私たちのクラスは運動会に向けて、毎日のように厳しい練習をしていました。
「絶対に一番を取るぞ!」──先生は本気でした。

小さな私たちにも妥協を許さず、他のクラスよりもはるかに厳しい指導。
クラス全員がその熱気に巻き込まれ、「うちのクラスは絶対勝つ」と信じていました。
 

そんなある日の国語の授業中、先生は教科書を閉じて、ふとこんな話を始めました。

「Aという国と、Bという国があります。
2つの国は、これから戦うことになりました。
Aの国は運動ばかりしている国。毎日走ったり鍛えたり、力をつけることだけに集中しています。
Bの国は、運動もするけれど、勉強もしている国です。
さて、この2つの国、どちらが勝つと思いますか?」

教室中の全員が、一斉に「Aの国」に手を挙げました。
もちろん私もその一人。
「運動ばかりしているほうが強いに決まっている」と信じて疑わなかったのです。
 

ところが、先生の答えは違いました。

「勝ったのは、Bの国です。
運動だけでなく、勉強もしている人たちのほうが、戦い方を工夫できるし、力を活かす方法も知っているからです。」

その瞬間、私の中で考え方が大きく変わりました。
「一つのことだけじゃなく、いろんな力を持ってこそ、本当に強くなれるんだ」──。
 

先生の言葉は、その後もずっと私の心に残り続けています。
あれは、単なる運動会の話ではありませんでした。

先生は、私たちが将来どんな場面に立っても通用するように──

「目標を達成するには、そのことだけに直結することだけでは足りない。
全く違う力や経験も、大きな武器になる」ということを教えてくれたのだと思います。


 

バランスを取るための挑戦

その出来事は、深く私の心に残り続け、幅広い人間でありたいと強く望むようになっていました。
そこで私は、金融業界にいた頃から、仕事に直結する知識だけでなく、会計や法律、経営に関する分野なども独学で学び、実践に活かしてきました。
 

目の前のお客様に責任を持って、より良い提案をするために──。
そんな想いが、学び続ける姿勢の原点になっています。

また、このブログは、不動産投資の方だけでなく幅広い方に向けて、少しでも気づきや、時に光のようなものを届けられたら──そんな思いで書いています。
 

私自身、これまで文章を書く仕事をしたことはありませんが、こうしてブログを書くことを通じて、文章で伝える力も少しずつ身につけているところです。


 

そして今、もう一つの挑戦──言葉を越えて人とつながるために

実は今、もう一つ新たに取り組んでいる挑戦があります。

それが「英語」です。英検1級の取得を目指して、少しずつ勉強を続けています。

そして実は、英作文の勉強を通じて培った「一つのテーマを結論から展開し、具体例を交えてまとめる力」が、このブログを書くうえでも役に立っています。
 

英語を学ぶことは、単に“外国語が話せるようになる”というだけの話ではありません。

私にとっては、自分とはまったく違う価値観や文化を持つ人と、心を通わせようとする行為でもあります。
相手の話す言葉がすべて完璧に聞き取れるわけじゃない。

むしろ「半分くらいしか分からない」という前提で、
それでも“伝えたい・理解したい”と思うからこそ、
言葉の裏にある意図や感情に、より丁寧に耳をすますようになります。

それって、たとえば自分とは考え方がまったく違う人と向き合うときの姿勢にも、どこか通じる気がしています。

英語を学ぶことは、「世界を知ること」であると同時に、相手を理解しようとする究極のトレーニング。
そして「自分の枠を広げること」でもある。

この挑戦は、私にとって、“視野を広げるための実践”なのです。


 

最後に

気づかないうちに、あなたの視野も狭くなっていませんか。
人はつい自分の考えに固執し、自分の考えが正しいと思い込んでしまう。
それは本当はもっとたくさんあるはずの可能性を狭めてしまっているかもしれないのです。

自分とは違う価値観を持つ人の話に、まずは耳を傾けてみる──それも一つ、視野を広げる方法だと思います。

その人がどんな背景や経験を経て、その意見にたどり着いたのか。
自分とは全く違う考え方に触れることで新しい視点も加わり、見える景色は変わります。
 

私自身、営業の現場でそれを何度も繰り返してきました。
例えば、なぜこの人は売却に反対するのか。
その理由を、じっくり話を聞きながら理解していくことで、「ああ、そういう背景があったのか」と腑に落ちる瞬間があります。

耳を傾けることは、相手のためであると同時に、自分の視野を広げるための大切な一歩だと、私は思います。
 

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執筆者

高木 恵美

複数の業界で営業職を経験し、今は一棟収益マンションの仲介業を全国で行っています。
営業としての土台を築いたのは、リクルートでの4年間。厳しくも濃密な経験が、私の原点です。
感性を大切にしながら、物件の背景や売主様・買い主様の想いに寄り添い、同時に、数字や収支の分析など、専門性もしっかりと持ち合わせた“両輪”の姿勢で、誠実な取引を心がけています。