2025/07/24
先日、ある四国の地方都市で、
一見とても魅力的に見える物件に出会いました。
駅にも近く、RC造で、
仮に利回りが13%近く見込めるとすれば、
通常であれば「即仕入れ」の判断が下されるような物件です。
けれど私は、利回りの数字だけで物件を判断することはありません。
全国を対象に物件を扱う私は、
現地の事情をまったく知らない状態から調査を始めることも多く、
ネットや地図だけでは見えない「土地の記憶」や「地域の空気」にも、
必ず耳をすませるようにしています。
今回も現地を訪れ、売主様と直接お話をする中で、
その地域が「ある種の用途や雰囲気を色濃く残しているエリア」であることがわかりました。
地元では長年にわたって、“ある特定のイメージ”が浸透している地域。
私自身、当初は何も知らず、
駅近で利回りも高く、好条件に見える
──ただそれだけで現地へ飛んで行きました。
けれど、周囲の雰囲気や聞き取り調査を重ねるうちに、
「買主様が引き継いだあと、思わぬところで影響が出るかもしれない」
「金融機関によっては、このエリアへの融資姿勢が極端に慎重になる可能性がある」
という現実が、徐々に浮かび上がってきました。
実際、ある地方銀行のご担当者から
「その地名だけで融資は通りにくい」との率直な声も聞きました。
私は、そうした背景そのものを否定したいわけではありません。
むしろ、さまざまな土地の成り立ちや今があることには、敬意もあります。
それでも、今の金融情勢や社会の空気感のなかで、
「買主様が安心して引き継げる物件かどうか」
そして「私自身が、将来にわたってその選択に責任を持てるかどうか」
という軸で、最後まで考え抜きました。
結果として、今回は“仕入れない”という判断を選びました。
数字上は、確かに魅力がありました。
けれど、私が大切にしたいのは、「売れるかどうか」ではなく、
「この物件が、誰かの未来を支える土台になれるかどうか」です。
やらないと決めることには、勇気が要ります。
でもそれは、売主様のご期待に、中途半端なかたちで応えないためであり、
買主様を想定外のリスクからお守りするためであり、
そして、銀行との信頼ある関係性をきちんと保つためでもあります。
そうした静かな選別こそが、
本当の意味での“誠実さ”につながると信じています。
これからも私は、
土地が発する“声なきエネルギー”に耳を澄ませながら、
一つひとつのご縁を大切に結んでいきたいと思います。